ネットの誹謗中傷に関する裁判については、弁護士などの法律の専門家にお尋ねください。以下の記載内容は、一般的に流布されている情報をまとめたものですので、詳しいことや具体的な案件については、弁護士などにご相談下さいませ。

ネット誹謗中傷に対して、裁判所で法的措置を取る

削除依頼が拒否されたら…

掲示板やブログなどでの誹謗中傷が削除されないときや、誹謗中傷を書き込んだ人物に損害賠償を求めるときは、裁判所で訴訟を起こすという方法が考えられます。ただ、裁判を起こすにはかなりの費用がかかるうえ、裁判という手段を選ぶことによるデメリットも少なくありません。ネット誹謗中傷の事件について経験が豊富な弁護士などの専門家に相談したうえで判断されることをおすすめします。

法的措置1:削除(掲載禁止)の仮処分請求

ネットの誹謗中傷をサイト管理人が削除しないときは、裁判所に「掲載禁止の仮処分」を請求することができます。掲載禁止とは、ネットから削除することです。 仮処分は暫定的な措置ですが、簡単な手続きで迅速に削除できるというメリットがあります。

通常の裁判を行ったとしても、その間は誹謗中傷が放置される恐れがあるときは、仮処分が有力な選択肢となります。

仮処分の事例は多数あり

実際に裁判所でネット誹謗中傷の削除の仮処分が認められたケースは山ほどあり、企業・団体だけでなく、個人でも仮処分による削除に成功している人は大勢います。

有名な「日本生命仮処分事件」

ネットの削除の仮処分決定としては、「日本生命仮処分事件」(東京地裁2001年=平成13年8月31日)が有名です。この判例は、掲示板「2ちゃんねる(2ch)」に書きこまれた誹謗中傷について、日本生命が東京地裁に仮処分の申し立てを行ったものです。東京地裁は仮処分命令を決定し、該当する誹謗中傷は削除されました。

2chの場合、誹謗中傷が増えることも

ただし、この日本生命のケースについては、仮処分に基づき削除された後も、2ちゃんねるで日本生命に対する誹謗中傷の書き込みが続きました。結果的には、誹謗中傷の被害を抑える効果はなく、日本生命へのメリットは少なかったと言われています。

法的措置2:民事訴訟

ネットに誹謗中傷の書き込みがされた場合、民法(民事)上の責任と刑法上の責任を追及することができます。民事上の責任追及としては、「差し止め請求」「損害賠償請求」「謝罪広告請求」などが考えられます。

「差し止め請求」の民事裁判

差し止め請求とは、他人の違法な行為によって自分の権利が侵害されている場合、または侵害されるおそれがある場合に、その行為をやめるように請求することを言います。ネット上で誹謗中傷の書き込みがされた場合には、サイトの管理会社に対して差し止め請求をすることによって、削除できることがあります。

損害賠償請求

損害賠償請求とは、他人の違法な行為によって損害を被った場合、その行為者にお金を支払わせることです。ネット上の誹謗中傷では、数十万円から数百万円の損害賠償金の支払命令が出るケースも少なくありません。

損害賠償責任の裁判は、誹謗中傷の書き込みをした人物やサイト管理会社に対して行います。悪質な書き込みがあることを知りながら、管理会社がそれを削除せず放置した場合には、損害賠償を勝ち取ることが可能です。ただし、損害賠償の裁判で勝訴しても、相手が賠償金の支払いを拒否し続けた場合、経済的なメリットを得られないことがあります。

謝罪広告請求

ネット上で誹謗中傷の書き込みをされた場合、被害者は名誉や社会的信頼を回復することを目的として、新聞等への謝罪広告の請求をすることもできます。

和解

和解とは、判決が出る前に当事者同士の話し合いによって訴訟を終了させることです。和解では、お互いが納得した上での合意が行われます。

和解のメリットとしては、「紛争を早期に解決することができる」「裁判にかかる費用や時間を節約することができる」といったことが挙げられます。 実際に、民事裁判のうちほとんどが和解によって解決をしています。裁判所で行われた和解は、判決と同様の効力があります。和解の内容に従わない場合には、裁判所による強制執行が期待できます。

民事訴訟の手続き

損害賠償などを求めて民事訴訟を起こす場合には、管轄の裁判所へ「訴状」を提出します。この際、訴える相手を特定する必要があります。ネット上の誹謗中傷は匿名で行われることが多いため、あらかじめサイトの運営会社に対して、発信者情報開示請求を行う必要があります。発信者情報開示請求について、詳しくはこちらへ

法的措置3:刑事責任の追及

ネット上の誹謗中傷の書き込みが「名誉毀損罪」「信用毀損罪」「侮辱罪」「業務妨害罪」等の犯罪に該当する場合には、警察や検察に捜査してもらうことが可能です。刑事裁判で罪が認められれば、相手方に懲役や罰金などの刑事罰が課されます。

名誉毀損罪

名誉毀損罪とは、公然と人の名誉を毀損する行為のことです。(刑法第230条)

ネットは、不特定多数の人がアクセスし閲覧することができるので、名誉毀損罪の要件となる「公然性」があります。また、「名誉を毀損する」とは、他人の社会的評価を落そうとすることを意味します。そのため、ネット上で誹謗中傷し、他人の社会的評価を害した場合には、名誉毀損罪となります。

名誉毀損罪が成立すれば、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処せられます。

侮辱罪

侮辱罪とは、事実を示さないで公然と他人を侮辱する行為のことです。(刑法第231条)

「他人を侮辱する」とは、名誉毀損罪と同じく他人の社会的評価を下げることです。名誉毀損罪と同じく、ネット上で中傷した場合には、「公然性」があるため、侮辱罪が成立します。名誉毀損罪と侮辱罪との違いは、事実を明らかにするかどうかによります。例えば、「A子はB男と不倫をしている」「B男には前科がある」など、事実を示して他人の社会的評価を害しようとする場合は名誉毀損罪です。「B男は馬鹿だ」「A子は浮気者だ」など単なる評価や漠然とした中傷で社会的評価を下げようとする場合は侮辱罪となります。

侮辱罪が成立すれば、拘留または罰金(科料)に処せられます。

脅迫罪

脅迫罪とは、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する行為のことです。(刑法第222条)

たとえば、ネット上の掲示板に、個人を特定したうえで、「この男を殺してください」「○○死ね」などと記載した場合には、脅迫罪の対象となります。実際に危害が加えられたどうかは、関係ありません。

脅迫罪が成立すれば、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。

信用毀損罪

信用毀損罪とは、ウソの情報によって人(または法人)の信用を落とす犯罪のことです。(刑法233条)

たとえば、ネット上に「A社は資金繰りが苦しいので倒産する」「B社の商品には欠陥がある」などの嘘の事実を書き込んだ場合などが対象となります。

信用毀損罪が成立すれば、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

業務妨害罪

業務妨害罪とは、他人や会社の営業を妨害することです。ウソ(虚偽)の情報を流して人の業務を妨害すること(偽計業務妨害罪)や、「威力」によって人の業務を妨害すること(威力業務妨害罪)があります。(刑法233条、234条)

ネット上の書き込みで業務妨害罪が問われた最近の事件としては、某評論家を脅迫する文章を2ちゃんねるに書き込み、予定されていた評論家の講演会を中止させたとして、脅迫罪と威力業務妨害罪が問われた事件があります。

業務妨害罪が成立すれば、信用毀損罪と同じく、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

刑事訴訟の手続き

ネットで誹謗・中傷をされ、加害者に処罰を求める場合には、警察に「告訴状」を提出します。告訴とは、被害者が警察や検察などの捜査機関に対して、被害にあった事実を申告し、加害者の刑事処罰を求めることを言います。

名誉毀損罪、侮辱罪で刑事告訴する場合には、被害者が犯人を知った日から6か月以内に告訴をしなければなりません。ネット上で誹謗中傷され、加害者の刑事責任を追及する場合には、速やかに警察に届け出ることが大切です。


名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」

名誉毀損罪と侮辱罪は「親告罪」です。親告罪とは、被害者からの告訴があってはじめて警察が刑事事件として立件できる犯罪のことをいいます。親告罪になっている理由は、裁判によって事実が明るみになることによって、被害者がさらに不利益をこうむるおそれがあるからです。

被害者からの告訴を受けた捜査機関は、証拠の押収等事実の究明を行い、証拠がそろえば裁判所に起訴します。その後は、裁判所によって「有罪か無罪か」が決まり、有罪の場合は処罰が下されます。

訴訟を起こす前にやっておきたいこと

まずは、削除依頼と証拠保全を

ネット上に誹謗中傷の書き込みがされた場合にまず行うべき手段として、掲示板やブログなどの管理者やプロバイダー等に削除依頼を行う方法があります。(ただし、2chに対しては、削除要請を行わないほうがいい場合がある)

削除請求は「内容証明郵便」が効果的?

削除依頼をするときは、通常の郵便ではなく内容証明郵便で送るという手段があります。内容証明郵便とは、相手方にどのような内容の文書を出したのかを郵便局(日本郵便)に証明してもらえる郵便です。

サイトの管理会社に損害賠償を勝ち取ることができるのは、その管理会社が誹謗中傷を削除することが技術的に可能で、問題となる情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っているか、知ることができたと認められる相当の理由がある場合です。(プロバイダー責任制限法第3条) そのため、訴訟で争う際にプロバイダー等に「そのような文書は受け取っていない」と主張されてしまった場合、削除請求をした事実を証明することが難しくなります。裁判時の証拠として残すためには、内容証明郵便で送ることが重要です。

また、内容証明郵便を送ることによって、訴訟を起こす予定であることを相手に間接的に伝える効果もあります。その段階で該当する書き込みが削除される場合もあります。

簡易書留でもOK

内容証明はかなりの費用がかかるため、簡易書留で送る人も多いです。簡易書留でも、サイト管理者には確実に届きます。ブログやサイトの運営会社の中には「削除依頼は、簡易書留で送って下さい」と呼びかけているところもあります。

証拠を保全する(パソコン画面の印刷)

ネットで誹謗中傷されたら、削除依頼者自身で、誹謗・中傷の書き込みがある掲示板やブログなどのページを証拠として保存しておくことが必要です。保存方法としては、書き込み部分をプリントアウトする方法のほか、パソコン画面をキャプチャーするという方法もあります。保存した日時も記録しておくとよいでしょう。

裁判所に証拠保全の申し立てをする

ネット中傷の被害者が裁判を起こすにあたっては、サイトの管理会社が持っているデータを残しておく必要があります。そのためには、裁判所に証拠保全の申し立てをすることが重要です。

2ちゃんねる(2ch)や爆サイ、「したらば」などの掲示板やブログのサーバーには、書き込んだ人物の情報(IPアドレス)が記録されています。また、そのIPアドレスが誰の者であるかは、インターネット接続事業者(プロバイダー)が把握しています。 裁判が開始し証拠調べが始まる前に、サイト管理・運営会社やプロバイダーがその電子データを消去してしまう恐れがあります。そうなると、裁判で立証することが難しくなってしまうため、訴訟を起こす前に、裁判所に証拠保全の手続きをし、裁判所の命令によってプロバイダー等にデータを保全させる必要があるのです。